採集語録

標本室を歩いていると、ときどき言葉が採集される。

名言ではない。
教訓でもない。

世界を観察している途中で、
名前のなかった現象に付いた仮のラベルである。

採集は、継続中。

  • 採集語録030「たしかに星人」

    「たしかに星人」

    何かを聞いたとき、
    内容はどうであれ、
    「たしかに」と一度受け止める習性。

    相手の話を受け止めつつ、
    自分の考えをかぶせず、
    いったん保留する。

    実際に腑に落ちる場合もあるが、
    同意したとは限らない。


    〈観察メモ〉
    「たしかに」は、同意ではない。

    受け止めることと、
    引き受けることは別である。

    受け止めつつスルーすることで、
    言葉に含まれているネガティブや
    邪気を直接受け取らずに済む。

    自分の中で腑に落ちたときにも、
    たしかに星人が降臨する。

  • 採集語録029「人間刺繍解析室」

    「人間刺繍解析室」

    興味を掻き立てられた時、
    違和感を覚えた時、
    その人間をじっくり観察・解析し、
    標本にするための部屋。

    観察は行うが、
断定は行わない。
    観察者が扱うのは、
    
現れた刺繍のみである。


    〈人間刺繍解析室の倫理〉
    第一条
    本人の本心は本人にしか分からない。
    第二条
    刺繍とは如実である。
    第三条
    しかし、考察はやめられない。
    第四条
    いやしかし
    
標本にならぬものこそ面白い。


    〈観察メモ〉
    倫理を逸脱すると、
    妄想と暴走に傾くため
    注意が必要だが、
    同時にそんな自分を
    渦中観察するのもまた面白い。


    関連用語:「刺繍とは如実である」
         「渦中観察
         「カオス観測所

  • 採集語録028「calling me 現象」

    「calling me 現象」

    意味があるかどうかは分からない。
    ただ、こちらの意識が揺れているとき、
    世界のほうから声をかけてきたように
    感じる現象。
    シンクロニシティという形を
    借りて現れることもある。


    〈観察メモ〉
    時計が鳴る。
    電話が鳴る。
    鳥が鳴く。
    雨が上がる。
    ただの偶然かもしれない。
    それでも人は、
    偶然に意味を見つける生き物である。

    呼びかけには余程のことがない限り
    応じるほうが、のちに良い結果を
    生み出すことが多い。

    後日、
    「あの時、呼ばれた気がして……」
    などと感想を述べたりする。

  • 採集語録027「渦中観察」

    「渦中観察」

    感情の渦中にいながら、

    同時にその自分を
観察している状態。


    〈観察メモ〉
    悲しい。

    かなり悲しい。
    なのに、
    「なぜこんなに悲しいのか」
    
涙の出どころを探している自分がいる。

    感情に飲まれているのに、
    
その濁流の様子まで見ている。

    そして、泣きながらふと思う。
    これは、なかなか面白い。

    観察しているからといって、
    
岸辺にいるとは限らない。
    渦中にも、
観測所はある。

    涙だけではない。
    いつもなら感動する料理が、
味気なくなることもある。
    感情は舌に影響する。
    そのとき舌もまた、
観察対象になる。

    関連用語:カオス観測所

  • 採集語録026「カオス観測所」

    「カオス観測所」

    静かで安全で清潔な
    整えられた場所に身を置き、
    混沌そのものや、
    そこから生まれる生命力を
    観察する習性。またはその場所。


    〈観察メモ〉
    カオスを観察するためには、
    静けさや余白、清潔さを必要とする。

    しかし、創作の源泉はいつも、
    場末、人混み、路地、恋愛、人間など、
    予測不能な世界にある。

    安全な岸辺から川を眺めるのではない。
    濁流の中へ入ってゆくためには、
    自分の中に静かな岸辺が必要である。