©️ SATOKO NOGUCHI
・
群青色の空
シルエットになった山の稜線に
圧倒的な存在感を放ちながら
昇ってくる
それを眺められるこの時間が
ものすごく愛おしい
もうとっくに空高く昇ってしまったが
私の心にはその時の余韻が
ずっと残っている
今宵の月は
本当に美しかったから
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・
群青色の空
シルエットになった山の稜線に
圧倒的な存在感を放ちながら
昇ってくる
それを眺められるこの時間が
ものすごく愛おしい
もうとっくに空高く昇ってしまったが
私の心にはその時の余韻が
ずっと残っている
今宵の月は
本当に美しかったから
・
・
たったいま頭に浮かんだことが
次の瞬間には抜け落ちている
気をつけて
こころを結びつけておかないと
ややもすれば
私のものだと
信じているこの肉体は
私のものでは
なくなってしまいそう
・
そもそもその肉体は
自身のものなのか
さくらは私に問いかけた
・
© Sidd Murray-Clark & Satoko Noguchi
谷崎潤一郎さんの著書に『文章読本』という一冊がある。
谷崎氏の語り口調が心地よく、名文を引用しながら、よい文章
とはどのようなものなのかを、丁寧にわかりやすく説明している。
文章について書かれてはいるが、それは文章に限らず、写真、
絵画、料理など、クリエイティブなこと全てに通じていて、
云々唸ってしまう場面が何度もあった。
例えば、
「最初に思想があって然る後に言葉が見出されると云う順序で
あれば好都合でありますけれども、実際はそうとは限りません。
その反対に、まず言葉があって、然る後にその言葉に当て嵌ま
るように思想を纏める、言葉の力で思想が引き出される、と云
うこともあるのであります」
という一節に、それは写真についても言えることだなぁと思った。
私の場合、最初に思想、構想があってそれに基づいて作品を作っ
ていくということはあまりなく、最初に撮った1枚の写真が、思
想の方向性を示していたり、何とはなしに撮り溜めていた写真を、
何となく並べてみると、ふっと構想が立ち上がったりする。
モノクロのシリーズは、「手の鳴る方へ」
カラーのシリーズは、「ゆきたい方へ」
両シリーズとも、今回の展示『Mirare』に向けて製作されたもの
ですが、少し不思議なプロセスを経て生まれました。
「手の鳴る方へ」
実家の本棚の奥から、モノクロの古い写真集が出てきて、久しぶ
りにモノクロでプリントしてみたくなり、何枚か選んでテストプ
リントをした。
テーブルにプリントを並べている途中で、飲みかけのコーヒーを
こぼし、プリントを汚してしまった。その時ふと、染色家の友人
がコーヒーで染めた生地を見せてくれたことを思い出した。その
コーヒー色に染まったプリントを持って Siddさんのアトリエを
訪ねた。その後に起きたことは省かせていただくが、そんないき
さつを経て、これらの作品が生まれていった。
私の意志ではなく、何か(それを何と呼ぶのか私にはわからない)
からのお導きで出来上がったという気がしている。
そう、”手の鳴る方へ” 導かれたのだ。
「ゆきたい方へ」
きっかけは昔プレゼントされたポラロイドカメラだった。
ずっと押入れで眠っていたのだが、ふと撮ってみたくなり、箱を
開けた。消費期限を過ぎたフィルムが一袋入っていた。フィルム
をセットしてワクワクしながら出かけた。
素敵な風景に出会い、何枚もシャッターを切ったが、ポラロイド
から吐き出された全ての写真はただ一色の何も写っていないフィ
ルムでしかなかった。本当は何かが写っているのではないか?と
目をこらして隅々まで見入った。
その時ふと、パソコンで画像処理中に、間違えて画像を拡しすぎ
てその一部が大きく切り取られ、混乱した時の自分の感情と結び
ついたのだった。
試しに、何枚かそのようなプロセスで出来てしまった写真を並べ
てみた。池の鯉の皮膚であったり、孔雀の羽であったり、虫の背
中であったりする、それらを見ていると、不思議と何か私に語り
かけるものがある。それらにはゆきたい方向があることが感じら
れた。その方向へ私が反応していったもの。それがこのシリーズ。
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空の彼方に潜んだそれは
情熱か
失望か
こんな日は
ニーナシモンの歌声に
心も体もゆだねたい
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・
雪が降った翌朝は
空気がテンションをもっている
真っ白な雪の粒子には
雨よりもさらに浄化する力が
あるように感じる
息を吸えば
いつも以上に繊細な波動をもって
研ぎ澄まされた空気が
鼻腔を通り入ってくる
そうしながら思い出すのだ
わたしと外との境目などはなく
その一部でしかないのだと
・
朝から家にこもりっきりで
心も体もどうしようもなくなったので
一走りして駅に行った
わたしは何かを期待していたのだろうか
人混みの中を歩くのも悪くないと呟いてみたり
立ち止まって人を待つふりをしてみたり
会えたのは美しい群青色に染まる空に
紅く光るキョウトタワーだった
今夜の満月は
まるで手のひらに小さくおさまる
無釉薬の白磁のよう
・
京都には白い月がよく似合う