夏になれば訪れたくなる場所。

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© SATOKO NOGUCHI

縄文展に行く前に
不忍池を訪れた

ここは夏になれば訪れたくなる場所

太陽が照らす蓮池はすっきりと美しいのに
その奥には妖艶で陰湿な気配がある

訪れるなりたちまち
その怪しげな雰囲気に呑まれてしまう

クラクラしている私の横に
溌剌とした女子高生たちがやってきて一言

「ぼーぼーじゃん!」
ケラケラ笑って去っていった

白白明けに。

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©SATOKO NOGUCHI

・                       じゃり
・                       じゃり
・                         じゃり
・                       じゃり

白白明けに
短く響く

ゆっくりと一歩ずつ
玉砂利を踏みしめているのだ

その音は静かに流れる
五十鈴川と重なって

わたしを世界へと誘う

白鷺が舞い降りた途端
蝉が鳴き出した

しめ縄とお稚児さん。

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© SATOKO NOGUCHI

夏バテして弱った体が
敏感に反応するからだろうか

早朝の四条通へ出ると
食べ物が腐敗した匂いが鼻をつく

太陽に背を向けて
お稚児さんを乗せた長刀鉾が
到着するのをじっと待っていると

汗が体のそこかしこから
皮膚を伝っておりていく

それが永遠に続く
シーンのように感じられる

見事なしめ縄切りに歓声が上がって
やっと夢から醒めた気がした

祇園祭 前祭 山鉾巡行 2018

雨の中思い出したこと。

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©SATOKO NOGUCHI

ひたすらまっすぐ落ちてくる雨の中
いつもの道を歩いていると

ビュンビュンという音と共に
数を数える声が聞こえてくる

近づいてみれば
少年がガレージで縄跳びをしていた

一飛びずつに
律儀に数をあてがって

さんじゅういち
さんじゅうに
さんじゅうさん
さんじゅうし

そういえばあの日も
こんな雨の日だった

遠くアラブの国を旅した私は
ひとつの家族と出会った屋根の下

言葉が通じなさすぎて
思わず日本語を口にすると

その響きが彼らの心をくすぐって
無邪気にけらけらと笑うのだった

いち

さん


ろく

私は請われて何度でも数を数えた

それはなんだかとても愛おしい
幸福な時間だった