季節の忘れ物。

 

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© SATOKO NOGUCHI

秋さん、お忘れ物ですよ〜
と秋に呼びかけたところで
秋は紅葉を迎えに戻って来たりはしない

とある旅館を訪ねた時のこと
その四角の中だけ
時が閉じ込められていた

聞けば襖にできてしまった
小さな穴を隠すために
庭の落ち葉を貼りつけたものだとか

それ以来同じ色でそこに留まっているそうな

小さな舞台。

nog_9683-2©SATOKO NOGUCHI

新月を三日ほど過ぎた日のこと

イモリのカップルが
浮かんでは沈み
近づいては離れ

それは楽しそうに戯れあっている

風が葉を鳴らす音や
微かに漂う春の匂い

 小さな池はさながら
スポットライトを浴びたステージのように
コロコロと色を変えた

二人をそっと引き立てるように…

朝の散歩。

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©SATOKO NOGUCHI

境内に足を踏み入れると
冷んやりと研ぎ澄まされた空気の中に漂う
甘酸っぱい香りが
わたしの中を満たした

花の上に積もった雪の白と
花の放つ紅色が
お互いの存在感を
引き立てて混ざり合っている

わたしは心底満たされた

 

朝の散歩@北野天満宮

煙に包まれて。

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©SATOKO NOGUCHI

上なのか下なのか
右なのか左なのか
明るいのか暗いのか
寒いのか暑いのか

一体わたしは何処にいるのだろう

煙の中にいると
山伏の背中がだけが道標

目で見えない方が
向こう側が鮮明に感じられる気がした

上徳寺 世継地蔵尊功徳日大祭にて

節分の日に。

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©SATOKO NOGUCHI

蒼く澄んでいた空に
薄灰色のベールがかかる

つぼみが綻んだ梅の花に
風が粉雪をさらりと運ぶ

髪飾りがさらさらと舞うのも
また春のようだと感じさせる

終わりと始まりの日に
北野天満宮にて

湯立神事。

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©SATOKO NOGUCHI

お釜の前に進み出た神楽女は
神様にだけ意識を向けて
全てが生まれた時から備わっていたかのように
美しい型とともに儀式を進めていく

とにかく粛々と
口を真一文字に結んで

じっくりぐつぐつ煮立てた熱湯を
神様へ捧げたのち
参拝客に振りかける
その度に熱い熱いと歓声が沸いた

その後この神楽女による鈴のお祓いを受けながら
わたしはゾクゾクと震えた
鈴の音の波動から思い切り気配を感じて

身も心も魂も
こんなこと実は初めてだった