©SATOKO NOGUCHI
西に移動するときは
左の窓側に座るのさ
過ぎ行く姿を眺めながら
行ってきますと言うために
西から帰ってくるときは
右の窓側に座るのさ
少しづつ近づいてくる姿に
ただいまと言うために
いってらっしゃい
おかえりなさい
あなたが言ってくれるから
西に移動するときは
左の窓側に座るのさ
過ぎ行く姿を眺めながら
行ってきますと言うために
西から帰ってくるときは
右の窓側に座るのさ
少しづつ近づいてくる姿に
ただいまと言うために
いってらっしゃい
おかえりなさい
あなたが言ってくれるから
それはそれは芳しい
春の空気にうっとりしながら
枝垂れ梅が満開を迎えた神苑を歩く
すばしっこいメジロに気を取られながら
見上げすぎて首が痛くなるのにも
喜びを感じてしまう
頭の中ではバイオリンのメロディが
軽やかに鳴り響き
朝まで抱えていた胡乱な気分は
いつの間にかどこかへ行ってしまった
枝垂れ梅があってメジロがいて私がいる
この世界
世界ってなんだろう?
触れることができないもどかしさを感じて
手を当てた首を横に傾げた
港にほど近い神社でベンチに腰掛け
海を眺めていると
遠くから仰々しいサイレンの音が
響き始めた
みるみるうちに鈍よりとした雲が垂れ込めて
ポツポツと小さな雨粒が落ちてくる
サイレンは依然として鳴り続き
灯篭の上で休んでいたカラスも
うんざりした表情を湛えている
私は胸騒ぎを覚えながらも
もう少し海を眺めていたくて
そこに佇んでいることにした
純粋に現在を味わうには
なんと贅沢な時間だろう
はじめて訪れた場所で
その土地に礼を言った
14時46分
薄暗い室内の
すべての壁は真っ赤に塗られている
座布団はアロハ柄で統一され
テーブルに置かれた薔薇は
完全に生気を失って首を垂れている
夏から置きっぱなしなのであろう扇風機
インド調の象の置物
えんじのベルベットの布がかかった
ライトアップのピアノ
調和を見つけられない
そんなものを求めてはいけないとでも言うように
エリック・クラプトンの曲がひたすら流れている
日本家屋を改装したその店で
ぬるくなったコーヒーに目を落としながら
何故か私は海を想った
海を求めたのかもしれない
その後、訪ねたお寺で
雲水たちに遭遇した
雲水が身にまとった美しい衣に
目が眩んだせいだろうか
私はそこに海を見た