世界。

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©SATOKO NOGUCHI

それはそれは芳しい
春の空気にうっとりしながら
枝垂れ梅が満開を迎えた神苑を歩く

すばしっこいメジロに気を取られながら
見上げすぎて首が痛くなるのにも
喜びを感じてしまう

頭の中ではバイオリンのメロディが
軽やかに鳴り響き

朝まで抱えていた胡乱な気分は
いつの間にかどこかへ行ってしまった

枝垂れ梅があってメジロがいて私がいる
この世界

世界ってなんだろう?
触れることができないもどかしさを感じて
手を当てた首を横に傾げた

14時46分。

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@SATOKO NOGUCHI

港にほど近い神社でベンチに腰掛け
海を眺めていると

遠くから仰々しいサイレンの音が
響き始めた

みるみるうちに鈍よりとした雲が垂れ込めて
ポツポツと小さな雨粒が落ちてくる

サイレンは依然として鳴り続き
灯篭の上で休んでいたカラスも
うんざりした表情を湛えている

私は胸騒ぎを覚えながらも
もう少し海を眺めていたくて
そこに佇んでいることにした

純粋に現在を味わうには
なんと贅沢な時間だろう

はじめて訪れた場所で
その土地に礼を言った

14時46分

蒼への憧憬。

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©SATOKO NOGUCHI

薄暗い室内の
すべての壁は真っ赤に塗られている

座布団はアロハ柄で統一され

テーブルに置かれた薔薇は
完全に生気を失って首を垂れている

夏から置きっぱなしなのであろう扇風機

インド調の象の置物

えんじのベルベットの布がかかった
ライトアップのピアノ

調和を見つけられない

そんなものを求めてはいけないとでも言うように
エリック・クラプトンの曲がひたすら流れている

日本家屋を改装したその店で
ぬるくなったコーヒーに目を落としながら
何故か私は海を想った

海を求めたのかもしれない

その後、訪ねたお寺で
雲水たちに遭遇した

雲水が身にまとった美しい衣に
目が眩んだせいだろうか

私はそこに海を見た