©SATOKO NOGUCHI
朝からどんよりと暗い
一日中篭っていたい誘惑にかられる
どうしたってこの季節はしんどいものだ
受け入れて味わうように
言い聞かせて
思い切って外へ出た
冷たい雨が皮膚にあたる
目から涙
鼻から雫
深夜になって
雨は雪に変わった
朝からどんよりと暗い
一日中篭っていたい誘惑にかられる
どうしたってこの季節はしんどいものだ
受け入れて味わうように
言い聞かせて
思い切って外へ出た
冷たい雨が皮膚にあたる
目から涙
鼻から雫
深夜になって
雨は雪に変わった
吐くたびに
空気に溶けて消えていく
白い息を観察しながら
いつもの散歩道を歩いた
夜の帳が降りる時間
藍色の空は
みるみる漆黒に染まっていく
白く薄いお月さまは
ほのかに優しく
世界を照らしている
その時わたしの白い息が
お月さまを包み込んだ
吸い寄せられ
吐き出されて
夜の街
男と女のささやき
ハイヒールの踵が石畳に当たる音
どこからともなく鼻をつくタバコの煙
肌をさすよな空気
行き止まりには何がある
薄墨色の空の下
手すりに体を預け
蕩けるような水の動きを
適当に目で追っていると
心がほんの少し
海に落ちていきそうになっていた
すると軽やかなメロディが
背後から聴こえてきて
思わず振り返ると
えんじ色のコートを身に纏った
白髪の小柄な女性の鼻歌だった
妙に印象的なメロディと
足取りも軽やかな後ろ姿は
しばらくの間そこに余韻を残した
見上げれば
空が少し明るくなったように見えた
・
むかしむかし
千本釈迦堂の本堂を建てるとき
棟梁を務めた大工が柱の寸法を間違えてしまいました
重大な失敗に苦悩している棟梁に助言して
窮地を救ったのが
妻のおかめさんでした
しかも彼女はその後
夫を立てるために自害してしまいましたとさ
・
何も自害までしなくったって…
その時の様子やおかめさんの心境を
想像するのがなかなか難しくて
脳の奥まで手を入れたくなる
舞台に登場したおかめさんは荒れ狂う鬼を
溢れんばかりの優しさと愛嬌でなだめる
チャーミングな女神だった
・
全国のおかめ信仰の発祥のお寺
千本釈迦堂 大報恩寺のおかめ福節分
まるで周りの喧騒は別の世界のことのよう
その凛とした佇まいは
私の心を静けさで包んで
そこに留める
彼女が立ち上がった瞬間
ふと現実に引き戻されて
一斉に音がかえってきた
八坂神社の節分祭