©SATOKO NOGUCHI
緊張と弛緩の波が
寄せては引いて
私は知らずのうちに微睡んでいた
車に打ちつける雨音が
突然激しくなったかと思うと
あっという間にコンクリートの上には
幾層にも水が重なってゆく
薄目をあけて夢の世界から
ぼんやり移り行く景色を眺めていると
重なりあった水に浸かりながら
若々しい足がこちらに向かってくる
私の頭は
“足も革靴も気の毒に”
とまた夢の世界に戻ろうとしたが
その情景が頭から離れず
まるで今の自分のようではないかと
突きつけられた気がした
しかし彼女は
自分が気の毒だなんてちっとも感じず
この状況を楽しんでいるのかもしれないではないか
どんな表情をしているのか
とても見てみたくなったが
後ろの席に座っている私に向かって
彼女が振り向くことは一度も無いまま
気がつけばバスの中に
彼女の姿は消えていたのだった